ランニングの最後、ゴールが近づくと、私は全力疾走しています。距離にして、だいたい200mくらい。気持ちよく流して終わればいいものを、わざわざ最後に一気に追い込む。
実はこれ、1〜2年ほど前から自分で勝手に始めた習慣。きっかけは、たいした理由じゃありません。
「最後に余った体力を出し切ったら、足腰の強化になるんじゃないか」「心拍を上げておけば、持久力以外にも体にいいことがあるんじゃないか」── そうなんとなく思っただけで、科学的な裏付けがあったわけではありません。
それに私は、もともと長距離より短距離のほうが得意。だからこそ、こんなことを考えます。「この短い追い込みで、長く走るのと同じような効果が得られたら、嬉しいんだけどな」と。
いつもの悪い癖なのか、良い癖なのか。思いついたら裏付け無しで導入してしまう。なんでだろう(笑)。で、時間が経ってからいつものように答え合わせ。
そこで今回は、自分が直感でやってきた”締めの全力ダッシュ”に、本当に意味があるのかを調べてみました。
先に結論だけ言うと ── 全力ダッシュは、ゆっくり走るのとは別物の運動(無酸素運動)で、普段のジョグでは使いにくい速筋を動かしてくれる。そして「短い時間の追い込みでも、持久力を効率よく高められる」のは、研究でも示されているそうです。ただし「長く走るのと”まったく同じ”」ではないし、「アフターバーンで脂肪が燃え続ける」といった話は誇張されがち。いいとこ取りの魔法ではないけれど、短距離が得意な私の直感は、そう的外れでもなかった。そんな答え合わせになりました。
全力ダッシュは、ゆっくり走るのと「別物」だった

ゆっくり走るのと、最後に全力で走るのって、体の中では同じことが起きてるの?
じつは、別物と考えたほうがいいです。運動はおおまかに2種類に分けられます。
- 有酸素運動:酸素を使いながら、長く続けられる運動。ゆっくりめのジョギングがこれ。主に遅筋(持久力タイプの筋肉)を使います。
- 無酸素運動:短い時間に大きな力を出す運動。短距離走やダッシュがこれにあたります。酸素の供給が追いつかないほどの強度で、主に速筋(瞬発力タイプの筋肉)を使います。
厚生労働省の資料でも、短距離走のような「短い時間に大きな力を出す運動」が無酸素運動の例として説明されています。マラソンのゴール前のラストスパートも、まさにこれ。つまり、走りの最後の全力ダッシュは、それまでのジョグとは使っている筋肉も、エネルギーの出し方も違うのです。
これは、むしろ”やっぱり”という感じでした。そもそも私が最後にダッシュを足したのは、なんとなく「ジョグとは違う効果がありそう」と思ったから。その勘のとおり、同じ「走る」でも、ゆっくり流すのと最後に全力を出すのとでは、体の中の仕組みが切り替わっていた。ジョグで主に使う遅筋を、ダッシュでは速筋に持ち替えるイメージです。
以前、筋トレで「力こぶ」を実感した話を書いたとき、神経の適応 ── 脳と筋肉の連携がよくなって、眠っている筋線維まで動員できるようになる、という話を少し勉強しました。今回の速筋の話も、どこか似ています。長く走るのが得意な遅筋とは別に、瞬発力の速筋がある。ジョグばかりだと、速筋を動かす機会は意外と少ない。最後のダッシュは、その眠りがちな速筋を起こす”ひと刺激”になっているのかもしれません。
短い追い込みで、長く走るのと「同じ効果」は出るのか

短距離が得意なんだ。短い全力の追い込みでも、長く走るのと同じくらい体に効くなら嬉しいんだけど……?
その発想は、的外れではありません。「短い時間の高強度な運動」を、休憩をはさみながら繰り返すトレーニングは HIIT(高強度インターバルトレーニング) と呼ばれ、近年とても研究されています。
研究では、こうした短時間・高強度の運動でも、持久力の指標である最大酸素摂取量(VO2max)を効率よく高められることが示されています。長い時間のゆっくりした運動に比べ、短い時間でも持久力アップが期待できる、という点が注目されているのです。
ただし大事な但し書きがあります。「長く走るのと”まったく同じ”」ではありません。総消費カロリーや、長時間の運動でしか得にくい適応もあります。あくまで「短い時間でも、持久力という面では効率がいい」という話で、すべてを置き換える魔法ではない、と考えてください。
「短い追い込みでも、持久力には効率よく効く」── これは、短距離が得意な私には、なかなか嬉しい答えでした。長くだらだら走るより、最後にきゅっと追い込むほうが、自分には合っている気がしていたので。
とはいえ正直に言えば、私がやっている200mダッシュ1本は、研究で使われるようなきっちりしたインターバルのメニューとは違います。それでも「短く、強く追い込む」という発想自体は、どうやら理にかなった方向だったようです。
「終わったあとも燃え続ける」は、本当か

高強度の運動は「終わったあとも脂肪が燃え続ける」って聞くよ。あれって本当なの?
「アフターバーン効果」と呼ばれるもので、正式には EPOC(運動後過剰酸素消費) といいます。高強度の運動のあと、体が元の状態に戻ろうとして、しばらく代謝が高い状態が続く ── これ自体は本当にある現象です。
ただし、その量は控えめです。研究では、運動後の追加消費はおおむね数十キロカロリー程度とされ、「終わったあともどんどん脂肪が燃え続ける」というイメージは誇張されがち。あくまで”おまけ”くらいに考えるのが現実的です。
「追い込めば、あとは寝ていても痩せる」みたいな話だったら出来すぎですが、現実はちょっとしたおまけ。私が締めのダッシュをする理由は、カロリー消費というより、「最後まで出し切った」という手応えと、速筋や心肺へのひと刺激のほうにありそうです。
私の「締め方」は、季節で変わる
科学の話が続いたので、私の実際の”締め方”も書いておきます。じつは私の追い込みは、季節で形が変わります。
- 今(夏)=ランニングの締めに、200mほどの全力ダッシュ。週に1〜2回くらい。走り終わりに余った体力を一気に出し切るイメージです。
- 秋〜春=階段ダッシュ。30段ほどの階段を10本ほど駆け上がります。やるのは1セットだけです。
なぜ夏は階段を休むのかというと ── この時期は階段のまわりに虫が多くて、集中できないからです(笑)。草の多い場所なので、飛ぶ虫が気になってしまう。だから夏のあいだはランの締めダッシュに切り替えて、虫が落ち着く秋の後半になったら、また階段に戻る。続けるために、季節で形を変えている、という感じです。
階段ダッシュなんて、今どき古臭い方法をやっているな、と自分でも最初は思っていました。正直、今でも思っていますね(笑)。
公園にある階段なので、子どもたちも遊びに来ますし、近くの道は車も通る。人目が多いわけではないですが、気にしようと思えば、視線はそれなりにある。ただ、こちらも真剣にやっていると周りも自然と気にしなくなる気がします。そして自分も。

「やらない理由」を一つずつ消すより、「やれる形」に変えるほうが、結局続くんだよね。
もともと、こうして最後に高い負荷をかけ始めたのは、自分の体にあえて負担をかけたかったから。10年以上続けてきたランニングに、もう一段の刺激を足したかったのだと思います。今回それを調べてみて、速筋・持久力・心肺へのひと刺激という形で、自分の直感に少し裏付けが取れたのは収穫でした。
学生の頃、ずっと運動をしていました。部活も入っていたので、その頃のトレーニング内容を今になって引っ張ってきているだけかもしれません。
ただ、それが続く1つの原動力となっているのは確かです。
階段ダッシュは「上り」が効く ── ただし注意も

平地のダッシュと、階段ダッシュ。体への効き方って違うのかな?
階段の上りは、なかなか優秀な運動です。
- 運動強度が高い:「メッツ」という運動の強さの単位(安静時を1として、その何倍のエネルギーを使うかを表す)で見ると、速いテンポの階段上りは8.8メッツほど。ふつうの歩行(3〜4メッツ)の2倍以上にあたり、心肺にしっかり効きます。
- 下半身を使う:足を高く引き上げて体を持ち上げるので、太もも(大腿四頭筋)やお尻まわりの筋肉を使います。
一方で注意も必要です。とくに階段の下りは、着地のたびに膝へ体重の数倍の負担がかかるとされます。膝に不安がある場合は、下りは無理せず、ゆっくり下りるなどの配慮を。上り下りとも、痛みが出るなら中止してください。
「階段=なんとなく膝に悪そう」と思っていましたが、負担が大きいのは主に”下り”のほう。私がやっている上りのダッシュは、心肺と下半身に効く高強度の運動だと分かって、少し見方が変わりました。とはいえ高強度なのは確かなので、私も軽く体を温めてから始めるようにしています。
☝️ 追い込みを取り入れるなら(無理は禁物)
- いきなり全力にしない:軽いジョグや動的ストレッチでウォームアップしてから。
- 少しずつ・回数控えめから:高強度は体への負担も大きいので、徐々に。
- 効き方も感じ方も人それぞれ。痛みや強い息苦しさがあれば中止を。心臓・膝などに持病や不安がある方は、始める前に医療機関に相談を。
まとめ ── 追い込みは、記録更新より「続けるスイッチ」
直感でやってきた”締めの全力ダッシュ”を調べてみて、分かったことを整理すると、こうでした。
- 全力ダッシュは、ジョグとは別物の無酸素運動。普段使いにくい速筋を動かす。
- 短時間の高強度でも、持久力(VO2max)は効率よく高められると研究で示されている。ただし長く走るのと”まったく同じ”ではない。
- 「終わったあとも燃え続ける(アフターバーン)」は本当だが量は控えめ。おまけ程度。
- 階段ダッシュは上り=心肺・下半身に効く高強度。下りの膝負担には注意。ウォームアップと無理しないこと。
私が締めのダッシュをするのは、たぶん記録を更新したいからじゃない。
私は、その時々で走る距離を変えます。少し体の調子が悪いと思えば、普段よりも短くする。いつもより走れると思ったら、余分に走る。時間や距離を測っているわけではありません。
最後に出し切ると、その日の運動が「ちゃんとやりきった」と感じられる。その手応えが、また次に走る理由になる。短距離が得意な私にとっては、“続けるためのスイッチ”みたいなものなのだと思います。
もし、いつものジョグやウォーキングが少しマンネリに感じたら、最後にほんの少しだけ追い込んでみる ── ただし無理のない範囲で、自分のさじ加減で。それだけでも、運動の手応えは変わるかもしれません。
参考にした主な情報源
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「アネロビクス/無酸素性運動」(短距離走やダッシュ=無酸素運動・速筋を使う)
- 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」情報シート:身体活動による疾患等の発症予防・改善のメカニズム(PDF)(有酸素性/無酸素性の分類とメカニズム)
- J-STAGE:高強度インターバルトレーニング(HIIT)が呼吸循環機能に及ぼす影響(短時間高強度と持久力)
- 国立国会図書館 レファレンス協同データベース「階段昇降と膝にかかる負担」(階段の膝負担・運動強度)
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